東京地方裁判所 平成4年(ワ)883号 判決 1994年4月26日
主文
一 被告有限会社エクセルジャパンは、原告に対し、金二億三五〇〇万円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで月一・五パーセントの割合による金員を支払え。
二 被告西端基晃は、原告に対し、金二億三五〇〇万円及びこれに対する平成四年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告村上由美子は、原告に対し、金一億四一〇〇万円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで月一・五パーセントに割合による金員を支払え。
四 原告の被告村上由美子に対するその余の請求を棄却する。
五 原告の被告宮崎武夫に対する請求を棄却する。
六 訴訟費用は、原告に生じた費用の四分の三と被告有限会社エクセルジャパン、被告西端基晃及び被告村上由美子に生じた費用を同被告らの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告宮崎武夫に生じた費用を原告の負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
理由
第一 請求
被告らは、原告に対し、連帯して金二億三五〇〇万円及びこれに対する被告有限会社エクセルジャパン及び被告村上由美子は平成三年一月一日から支払済みまで月一・五パーセントの割合による金員を、被告西端基晃は平成四年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被告宮崎武夫は平成四年二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
第二 事案の概要
本件は、ゴルフ会員権の売買・仲介等を業とする被告有限会社エクセルジャパンに総額二億五〇〇〇万円を融資したと主張する原告が、同社に対し、内金弁済分を除いた金二億三五〇〇万円の返還を求めるとともに、原告が右返還を受け得なくなつたのは、同社の代表取締役が右融資金を私的に消費してしまつたためであるとして、同社の取締役である個人被告らに対し、有限会社法三〇条の三による取締役の任務懈怠責任等を追及した事案である。
一 争いのない事実
1 被告有限会社エクセルジャパン(以下「被告会社」という。)は、ゴルフ会員権の売買及び仲介等を業とする有限会社である。
2 被告西端基晃(以下「被告西端」という。)は被告会社の代表取締役であり、被告村上由美子(以下「被告村上」という。)及び被告宮崎武夫(以下「被告宮崎」という。)は被告会社の取締役である。
二 当事者の主張
(原告の主張)
1 原告は、平成元年一〇月三一日、被告会社に対し、ゴルフ会員権の仕入・運用資金として、二か月間にわたり金五〇〇〇万円を、利息月三パーセントの約定で貸し付ける旨を約し、同年一一月九日、被告会社の銀行口座に右同額を振り込んだ。
2 更に、原告は、同年一二月八日ころ、被告会社に対し、ゴルフ会員権の仕入・運用資金として、三か月間にわたり金一億円を、利息月一パーセントの約定で貸し付ける旨を約し、同年一二月一一日、被告会社の銀行口座に右同額を振り込んだ。
3 原告と被告会社とは、平成二年二月一日ころ、1、2項の金銭消費貸借契約の利率が異なつていたことから右二つの契約を一本化して利率を揃えることとし、貸付金額を右二つの消費貸借契約の合計額である一億五〇〇〇万円とし、利率を月一・五パーセント、貸付期間を同年二月一日から一一か月とする旨を約した。
4 平成二年三月八日、原告は、被告会社に対し、前項同様の条件で更に金一億円を貸し渡した(以下、1項ないし本項で交付された金員を総称して「本件交付金」という。)。
5 被告西端及び被告村上は、原告に対し、本件交付金受領の際、被告会社の貸金債務につき連帯して保証する旨を約した。
6 ところが、被告会社は、3、4項所定の貸付期限である平成二年一二月末日を過ぎても、金二億五〇〇〇万円を返還せず、平成三年二月一日に金一五〇〇万円を返還しただけであつた。
7 被告西端は、被告会社の代表取締役であるながら、自ら被告会社の金員を私的に消費し、被告会社の原告に対する借入金の返還を不可能ならしめた。
8 被告村上及び被告宮崎は、被告会社の取締役として、被告西端の私的消費行為を防止すべき立場にありながら、一度も会計帳簿を見ることなく、またその要求もせず、取締役会も開催せず、またその要求もせず、取締役としての注意義務を怠り、漫然と右消費行為を放置した。
9 よつて、原告は
(一) 被告会社に対しては、貸金返還請求権に基づき、金二億三五〇〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成三年一月一日から支払済みまで約定の月一・五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを
(二) 被告西端に対しては、保証債務履行請求権、有限会社法三〇条の三の取締役の第三者に対する責任又は民法七〇九条の不法行為責任に基づき、金二億三五〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成四年二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを
(三) 被告村上に対しては、保証債務履行請求権又は有限会社法三〇条の三の取締役の第三者に対する責任に基づき、金二億三五〇〇万円及びこれに対する最終弁済期の翌日である平成三年一月一日から支払済みまで約定の月一・五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを
(四) 被告宮崎に対しては、有限会社法三〇条の三の取締役の第三者に対する責任に基づき、金二億三五〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成四年二月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払を
それぞれ求める。
(被告会社・被告西端・被告村上の主張)
1 原告主張の時期に、被告会社が原告から総額二億五〇〇〇万円の金員を受領した事実は認めるが、原告・被告会社間に金銭消費貸借契約が成立したとの主張は否認する。
原告・被告会社間の契約は、実質的に商法上の匿名組合契約類似の契約であり、かつ、被告会社が原告に対し元本保証をした事実もないから、右契約上の損失は出資者たる原告の負担に帰すべきものであり、被告会社が原告に返還すべき金員は存在しない。
2 被告西端が被告会社の債務について連帯保証した事実はない。
3 被告村上が、原告の主張1項記載の金五〇〇〇万円について連帯保証した事実は認めるが、その後の金二億円について連帯保証した事実はない。
本件契約書上に連帯保証人として被告村上の印章が押捺されているのは、被告西端が被告村上の印章を冒用したものであつて、被告村上は連帯保証人となることを承諾していなかつた。
4 被告西端が、被告会社の金員を私的に消費した事実はない。あくまで営業のために使用したものである。
(被告宮崎の主張)
1 被告宮崎は、ゴルフ会員権売買を目的とする株式会社ミヤワールドの代表取締役として、被告会社に対し、金一億円を貸し付け未回収となつているものであり、被告会社がゴルフ会員権売買等の資金として運用しているのは右一億円のみであると信じていた。
2 そして、被告宮崎は、毎週少なくとも二、三回は被告会社に顔を出し、その営業状況を観察し、適宜、被告西端から状況説明を受けたが、右金一億円の資金に見合うゴルフ会員権の売買は現実に行われており、不審な点は全くなかつた。
3 原告代表である林俊孝は、被告西端を介し、被告宮崎とも不動産取引やゴルフ会員権取引を通じて親しく交際してきた関係にあるのであるから、原告が被告会社に対し金二億五〇〇〇万円もの投資をしているのであれば、被告宮崎に右投資の事実を告知してしかるべきであり、右告知をしなかつた以上、被告宮崎にそれ以上の具体的調査義務はない。
4 また、原告が被告会社に出資したとされる金二億五〇〇〇万円は、被告会社の経理を通さず、そのまま被告西端個人の用途に消費された疑いが強く、だとすれば被告宮崎が取締役としての一般的注意義務を尽くしたとしても、原告の損害を防止することは不可能であつた。
5 被告宮崎が一度も被告会社の会計帳簿を見ず、その要求もしかなつたこと、取締役会を開催せず、その要求もしなかつたことは認めるが、右に述べたとおり被告宮崎には取締役としての任務懈怠がなく、また、仮に任務懈怠があつたとしても原告の損害との間に相当因果関係がないから、被告宮崎に有限会社法三〇条の二の責任は成立しない。
三 争点
(被告会社関係)
1 本件交付金は、金銭消費貸借契約に基づいて交付されたものであると認めることができるか。
(被告西端関係)
2 被告西端が、本件交付金についての被告会社の債務を連帯保証したか否か。
3 被告西端が、被告会社の金員約二億円を私的に消費したか否か。
(被告村上関係)
4 被告村上が、本件交付金のうち金二億円について、連帯保証した事実の有無。
5 被告村上について有限会社法三〇条の二の取締役の任務懈怠責任が成立するか。
(被告宮崎関係)
6 被告宮崎について有限会社法三〇条の二の取締役の任務懈怠責任が成立するか。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件交付金の法的性質)について
1 前記争いのない事実及び《証拠略》を総合すると、本件各交付金に関する事情として、以下の事実を認めることができる。
(一) 原告代表者である林俊孝(以下「原告代表者」という。)と被告西端とは、昭和四七年ころからの古い知り合いであつた。
(二) 平成元年二月ころから、被告西端は、原告代表者に対し、ゴルフ会員権の取引を勧誘するようになり、同年九月ころから一〇月ころにかけて、原告代表者は、被告西端を通じて、三島スプリングス、都留カントリー、富士国際、千葉新日本という四つのゴルフ場の会員権(購入代金総額一億一四〇〇万円)を購入した。
右のうち、三島スプリングスは自己所有目的での購入であつたが、その余は投機目的での購入であり、後に、原告代表者は被告西端に買い戻させることによつて、各五〇万円程度の利益を得た。
(三) 同年一〇月末ころ、被告西端は、原告代表者に対し、個別の取引について売り買いを繰り返していたのでは煩雑であるから、あらかじめ、被告会社(同年一〇月二〇日に設立)に対し一定の金額を預けて欲しい旨を申し入れ、原告代表者はこれを了承することにした。
そこで、原告は、被告会社との間で、同年一〇月三一日、以下のような内容の「業務提携協定書」を作成のうえ、これに基づき、同年一一月九日、被告会社の銀行口座に金五〇〇〇万円を振り込んだ。
(1) 原告は被告会社に対して、ゴルフ会員権の仕入・運用資金として一定期間(原則として二か月間)に渡り、五〇〇〇万円を預け入れる。
被告会社はこれに対して、毎月三パーセント(一五〇万円)以上を目標に、原告に手数料として支払い、また預け入れ元本について二か月毎に一旦清算をする。
(2)ゴルフ会員権の売買については、原告は被告会社に一任することとし、取り扱う物件のなかで、一か月以上在庫するものについては原告のもとにこれを預ける。
(3) 原告は被告会社に対して、広告宣伝費の相応の負担をする。負担金額としては、毎月の手数料受領時に、原告・被告会社両者協議の上決定する。
(4) 上記以外で、原告の独自のゴルフ会員権売買をスポット的に応援し、被告会社は原告の増収益に貢献する。
(四) 被告村上は、前同日、右協定書に連帯保証人として署名・押印した。
(五) 原告と被告会社は、同年一二月八日ころ、運用期間を三か月、預け入れ金額を一億円、手数料率を月一パーセント(一〇〇万円)とするほかは、前々項と同様の内容の「業務提携協定書」を作成、これに基づき、同年一二月一一日、原告は被告会社の銀行口座に金一億円を振り込んだ。
(六) 当時、被告村上と内縁関係にあつた被告西端は、同人の印章を被告会社の金庫内に預かつていたものであるが、右印章及び同人名下の記名印を用いて、右協定書の連帯保証人欄に被告村上名下の記名・押印をした。
(七) 被告西端は、原告代表者に対し、平成二年二月一日ころ、(三)項及び(五)項の契約を一本化したい旨を申し入れたところ、原告代表者はこれを了承、原告と被告化とは、平成二年二月一日ころ、運用期間を一一か月、預け入れ金額を一億五〇〇〇万円、手数料率を月一・五パーセントとするほかは、前々項とほぼ同様の内容の「業務提携協定書」を作成した。
なお、右協定書についても、被告西端は、被告村上を連帯保証人とする記名・押印をした。
(八) 平成二年三月初、被告西端は、原告代表者に対し、前項同様の条件で更に金一億円ないし一億五〇〇〇万円を融資して欲しい旨を申し入れたところ、原告代表者は短期の融資金として右申し出を了承、原告は、同年三月九日、金一億円を被告会社の銀行口座に振り込んだ。
(九) 平成二年八月末ないし九月初めころ、いわゆる湾岸危機の勃発に伴う経済情勢全般の悪化に危惧の念を抱いた原告代表者は、被告西端に対して、(八)項記載の追加融資分一億円を数回にわたつて催告したが、結局、催告期日に返還はなされず、平成二年一二月半ば過ぎになつて、原告代表者は、被告西端に対して、被告会社に対する融資金総額二億五〇〇〇万円を最終弁済期限である同月末日までには返還するよう申し入れたが、右期日における返還もなされなかつた。
(一〇) 平成三年二月一日、被告西端は原告代表者方を訪れ、本件交付金の一部弁済金として金一五〇〇万円を支払うとともに、残金についてはもう少し待つてほしい旨を申し入れた。
(一一) 被告西端は、平成三年二月一三日、平成村上を同道して原告代表者方を訪れ、「これが真実・実態です」と題する被告会社の経理内容についての説明書類を交付するとともに、被告会社の窮状を説明して残金の返還猶予を懇請したが、原告代表者の聞き入れるところとならなかつた。
2 本件交付金の法的性質について検討するに、前記認定事実によれば、原告代表者は、本件交付金について、その運用の出来いかんにかかわらず、期日が来れば全額返済されるべきものであると認識していたこと及び被告会社代表者たる被告西端においても原告の交付金全額について返済の義務あることを認識しつつ、原告に対し、その返済猶予を懇請していたことが認められ、以上によれば、本件交付金は、金員の交付を受けた者が同額の金員を一定期間後に返還する旨を約する契約、すなわち金銭消費貸借契約のもとに交付されたものであると解するのが相当である。
3 被告会社、被告西端及び被告村上(以下「被告会社ら」と総称する。)は、「業務提携協定書」の文言を根拠に、本件交付金は単純な金銭消費貸借契約によるものではなく、資金運用の結果、損失が生じた場合には、その損失は出資者である原告が負担すべきもの(匿名組合契約類似の契約)と解すべきであると主張するが、右認定事実に照らして背馳するばかりか、被告西端の認識が前記のとおりであると解される以上、契約書の文言に拘泥すべきでないから、被告らの右主張を採用することはできない。
4 もつとも、原告と被告会社との取引開始の端著を見るに、当初は、両代表者個人間において個別のゴルフ会員権売買取引を繰り返していたものを、一括出資に形に切り換えたものであることが窺われ、右経緯からすれば、単純な金銭消費貸借契約ではないとする被告会社らの主張にも一部頷ける点がないわけではない。
しかしながら、本件「業務提携協定書」に定めのある「一か月以上在庫するものについては原告のもとにこれを預ける。」との条項についても、当初は、二、三回、履践されたものの、平成二年一月に被告会社が新事務所を開設したころより後には全く実行されなくなつたこと、及び、平成二年二月一日の契約内容変更によつて、契約期間がそれまでの二か月ないし三か月から一一か月と大幅に伸長されたことを考えると、少なくとも右契約内容変更以降は、本件交付金は純粋の金銭消費貸借契約の目的物としての性質を持つに至つたものと解するほかはないものである。
5 よつて、原告の被告会社に対する金二億三五〇〇万円の貸金返還請求は理由がある。
二 争点2(被告西端の個人保証の有無)について
原告は、被告西端が本件出資契約上の被告会社の債務を連帯保証した旨を主張するが、本件「業務提携協定書」に、連帯保証人として被告村上の名が記載されているにもかかわらず、被告西端個人の名は記載されていないことからすれば、同人の個人保証は殊更に排除されているものとさえ見られるのであつて、結局、本件全証拠をもつてしても原告主張事実を認めるに足りないというべきである。
三 争点3(被告西端の私的消費行為の有無)について
1 《証拠略》によれば、被告西端の私的消費行為の有無に関し、以下の事実を認めることができる。
(一) 被告西端は、被告会社として原告から借り入れた金二億五〇〇〇万円を同被告個人の借入金として使用し、被告会社の経理を担当する税理士には借入額について正確な報告をしていなかつた。
(二) 被告会社の会計書類(総勘定元帳、決算報告書)の作成・管理は、代表取締役である被告西端が中心となつて行つていたものであるが、総勘定元帳と決算報告書との記載の間に齟齬が見られる等、被告会社の会計書類の管理方法は杜撰なものであつた。
(三) 被告西端は、被告会社の取締役である被告宮崎に対しても、原告からの借入金の存在を明らかにしていなかつた。
(四) 前記一1においても認定したとおり、被告西端は、平成三年二月一三日、被告村上を同道して原告代表者方を訪れ、「これが真実・実態です」と題する被告会社の経理内容についての説明書類を、原告代表者に交付したが、右書面のなかには、被告西端が被告会社から金一億七〇〇〇万円を個人として借り入れた事実及び右個人借入金が被告西端の個人的な用途にあてられたことを認める記述がある。
(五) 現在、被告会社は事実上の倒産状態にあつて企業活動を停止しており、原告に対し、金二億三五〇〇万円を返還することは不可能な状態にある。
なお、平成二年一一月二八日付で作成されている被告会社の「決算報告書(第1期)」には、平成元年一〇月二〇日から平成二年九月三〇日までの被告会社の当期末処理損失額として金三六九〇万八六五〇円が計上されており、平成四年一月二五日付で作成されている被告会社の「決算報告書(第2期)」には、平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの被告会社の当期末処理損失額として金一億九五七七万六〇六二円が計上されている。
2 右認定事実によれば、被告会社の経営が現在のように破綻状況となり、ひいては被告会社の原告への弁済が不可能となつた原因として、被告西端による被告会社の金員の流用の事実があつたものと認めるのが相当である。
3 この点、被告会社らは、被告西端による私的消費の事実を否認し、被告会社の経営が破綻したのはバブル崩壊の影響である旨を主張するが、被告会社名義の金員を被告個人の借入金として使用していた事実については、被告西端自身が本人尋問において自認するところであつて、右のように被告会社名義の金員を代表取締役が個人名義で使用した事実が明らかな以上、特段の事情のない限り、被告西端の重過失による任務懈怠の存在を推認することができるというべきであるから、被告の右主張には理由がない。
もつとも、個人名義で使用した金員であつても、その実質的な使途が被告会社の利益になるものであつたという事実が立証されるのであれば、前記特段の事情があるものと評価できる場合もあり得るが、被告西端が本人尋問において述べるところによつても、右金員の具体的な使途は、新設ゴルフコースの地上げグループに対する裏接待・裏リベート等の費用、アメリカ旅行の費用、自らが共同経営する銀座のクラブへの貸付、交際していた女性への手切金、遊興費等であつたというのであり、右に述べられた使途をもつて被告会社の利益になるものと認めることは到底できないところであるから、結局、前記認定を覆すものではない。
4 よつて、原告の被告西端に対する有限会社法三〇条の三に基づく金二億三五〇〇万円の損害賠償請求は理由がある。
四 争点4(被告村上の個人保証の有無)について
1 前記一1において認定したとおり、原告が被告会社に貸し付けた金二億五〇〇〇万円のうち、平成二年二月一日までに貸付のあつた金一億五〇〇〇万円については、各「業務提携協定書」上に連帯保証人として被告村上名下の印影が存在する。
右各印影が被告村上の印章に基づくものであることについては当事者間に争いがない以上、右印影は被告村上の意思に基づいて作出されたものと推定され、結局、右各「業務提携協定書」の被告村上作成部分については、真正に成立したものと推定するのが相当である(民事訴訟法三二六条)。
2 これに対し、被告会社らは、右各「業務提携協定書」のうち、平成元年一二月八日付のもの及び平成二年二月一日のものについては被告西端が被告村上の同意を得ることなく、同被告の印章を冒用して作成した偽造文書である旨を主張し、被告西端本人も同旨の供述をしている。
しかしながら、被告村上の印章が被告会社の金庫内に保管されていた事実からすれば、あらかじめ右印章の使用についても、被告村上が被告西端に対し包括的に許諾を与えていたと推認するのが相当であり、これに反する被告西端の供述部分は、同被告と被告村上とが内縁関係にある事実に照らし、被告村上の利益を図るためになされたものとの疑いが強く、到底信用するに足りない。
よつて、原告の被告会社に対する貸付のうち、当初貸付分である金一億五〇〇〇万円については、被告村上による個人保証の成立を認めるのが相当である。
3 ところで、原告は、平成二年三月九日実行の追加融資一億円についても、被告村上の個人保証が成立する旨を主張するが、右追加融資については正式の契約書が作成されておらず、被告村上の個人保証の事実を示す直接的な証拠は存在しない。
原告は、《証拠略》中に「その他の取り決めは、大体前の協定を同じです」との文言があることをもつて、追加融資分についても被告村上による個人保証の成立を認め得ると主張するものと解されるが、右の文言自体、曖昧で解釈の余地を残すものであるうえ、同号証の作成に被告村上の意思が反映していることの証拠が何ら存在しない以上、被告西端作成にかかる同号証のみをもつて、被告村上の保証意思の存在を推認することはできないものと言わなければならない。
以上によれば、追加融資分一億円について被告村上による個人保証の成立を認めるに足る証拠はない。
4 なお、本件においては、前記のとおり、被告会社が後に金一五〇〇万円を内入弁済していることから、被告村上の責任範囲を確定するにあたり、右内入弁済分を当初融資分を追加融資分のいずれに充当したものと解すべきかが問題となるが、本件全証拠をもつてしても、弁済者である被告会社が弁済に先立ち充当の方法を指定した事実も弁済受領者である原告が右指定をした事実も認めることができない(主張もない)から、法定充当の規定(民法四八九条四項)に従い、債権額に応じ按分充当されたものとして、当初融資分一億五〇〇〇万円のうち金九〇〇万円は弁済ずみであると解する。
5 よつて、原告の被告村上に対する保証債務履行請求は、金一億四一〇〇万円の支払いを求める部分について理由があるが、その余は理由がない。
五 争点5(被告村上の任務懈怠責任の成否)について
1 被告村上が、被告会社の取締役には就任していたものの、取締役として何ら実質的な活動を行わない名目的取締役であつた事実は、弁論の全趣旨により明らかである。
名目的取締役といえども、取締役に就任した以上は第三者との関係においては取締役としての義務を尽くすべき責任があることは当然であるから、被告村上において取締役としての実質的活動を行わなかつた事実は、原告との関係では、故意または重過失による任務懈怠に該たるものと評価できる。
2 しかしながら、前記三において認定したとおり、被告西端は、原告からの借入金を被告会社の経理には入金せず、直接自らの個人的使途に流用していたものであるから、仮に、被告村上において、会計帳簿を閲覧する等して、被告会社の経営状況を監視していたとしても、被告西端による右金員消費行為を防止することは困難であつたものと推認できる。
更に、被告会社が、被告西端の個人的営業手腕に頼るワンマン会社であつたという事情を考えるならば、被告村上が取締役としての責務を尽くすことによつて、原告の損害発生を回避することが可能であつたと認めることはできないから、結局、前記被告村上の任務懈怠と原告との損害との間に相当因果関係の存在を肯定することは困難である。
3 よつて、被告村上の任務懈怠責任を追及する原告の請求は理由がない。
六 争点6(被告宮崎の任務懈怠責任の成否)について
1 《証拠略》によれば、被告会社、被告宮崎及び原告の三者の関係について、以下の事実を認めることができる。
(一) 被告宮崎は、平成元年六月ころ、被告西端と知り合い、同年七月ころから、被告西端を通じてゴルフ会員権の取引を行うようになつた。
(二) 被告宮崎は、平成元年九月、被告西端に対し、金五〇〇〇万円を融資した。
(三) 平成元年一〇月二〇日に被告会社が設立されると、被告宮崎は、被告西端の求めに応じて、同月二六日、被告会社の取締役に就任した。
(四) 平成元年一二月末ころ、被告会社と被告宮崎が代表取締役を務める訴外株式会社ミヤワールド(以下「訴外会社」という。)とは、以下の内容を基本とする業務提携契約を締結した。
(1) 訴外会社は、被告会社に金一億円を預け入れる。
(2) 訴外会社は、右金一億円とは別に金一億円の資金を準備し、先の金一億円と合わせ合計金二億円の資金を用い、被告会社及び訴外会社は共同してゴルフ会員権売買業務を行う。
(五) 右業務提携契約に基づき、平成二年一月、被告会社と訴外会社とは、「フェアウェイゴルフ」の名称の下、四谷に共同事務所を開設、ゴルフ会員権の売買業務を開始した。
被告会社と訴外会社はそれぞれ二名ずつの従業員を雇用し、被告会社は共同事務所の左側奥を、訴外会社は共同事務所の右側奥を使用した。
(六) 被告会社と訴外会社は、共同事務所の中央部分に共用のホワイトボードを設置し、両社が取り扱つているゴルフ会員権売買の一覧表と、長期在庫物件の一覧表とを常時、右ホワイトボードに記載していた。
(七) 被告宮崎は、平成二年中は、毎日か一日置きくらいの頻度で共同事務所に出社し、自らの経営する訴外会社の営業報告を受けていたが、出資者としての関心から、被告会社の営業状態について右ホワイトボードの記載にも注目しており、その記載内容から、被告会社は平均すると金一億円前後の在庫を保持していることを確認してきた。
(八) 被告会社と訴外会社は、毎週月曜日と月初めに営業に関するミーティングを実施する取り決めになつており、被告宮崎も右ミーティングに出席していたが、右ミーティングの内容からは、被告会社の営業状態に不審な点は見受けられなかつた。
(九) 被告西端、被告宮崎及び原告代表者の三名は、平成二年三月初めころ、連れ立つてロスアンゼルスに海外旅行に出掛けたほか、平成元年秋ころから平成二年一一月ころまでの間、連れ立つて何回もゴルフに出掛け、更には、平成二年三月末から平成三年一月まで、銀座で「マルシェ」という名称のクラブを三名で共同経営する等、個人的な交友関係にあつた。
(一〇) 被告宮崎は、平成三年一月末ころ、被告西端に対し、ゴルフ会員権取引に関し一五〇〇万円の損失分担金の支払いを求めたところ、同被告から、被告会社の経営は破綻しており右損失分担は不可能である旨を告げられ、このとき、被告会社の経営が破綻している事実を知つた。
(一一) 原告代表者が、被告宮崎に対し、原告が被告会社に対し金二億五〇〇〇万円もの多額の融資をしている事実を告げたのは、平成三年一月のことであり、それ以前においては、被告宮崎は、原告が右のような多額の貸付を行つた事実を認識していなかつた。
2 以下、被告宮崎の取締役としての任務懈怠責任の成否について検討する。
前記認定のとおり、被告宮崎は、自己の経営する訴外会社が被告会社に対し金一億円の融資をしていたことから、被告会社の営業内容についても融資者としての相応の関心を持つており、被告会社の在庫状況等を示すホワイトボードの記載に注目していた事実、及び、被告会社において訴外会社の融資額である金一億円前後の在庫が確保されていることを確認していた事実を認めることができる。
そして、前記認定のとおり、被告宮崎において、訴外会社以外に、原告が被告会社に対し総額金二億五〇〇〇万円もの多額の金員を融資していた事実を認識していなかつたことからすれば、右ホワイトボードの記載による被告会社の営業状態の把握を越えて、会計帳簿の閲覧等、何らかの監視措置を講じるべきであつたとまで言うことができず、結局、被告宮崎には、取締役としての重過失による任務懈怠行為を認めることはできないと言うべきである。
3 この点、原告は、被告宮崎は被告過失の取締役であつたのだから、訴外会社以外にも原告が多額の出資をしている事実を知り得たはずであるし、もし知らなかつたとすれば、それ自体が重過失による任務懈怠である旨を主張する。
確かに、前記ホワイトボードによる確認行為は、被告会社取締役としての関心というより、主として融資者としての関心からなされたものであつたものと認めることができ、被告宮崎において、訴外会社の融資額に相当する金一億円前後の在庫があれば十分と考え、他の被告会社債権者に対する配慮を欠いていた事実は否定できない。
しかしながら、前記二1において認定したとおり、被告西端が原告からの借入金を同被告個人の借入金として使用していたこと、同被告が借入の事実を被告宮崎にも秘匿していたこと、帳簿上も借入金の存在が曖昧になつていたこと等からすれば、被告宮崎において、被告会社が運用しているのは訴外会社の融資した一億円のみであると信じたことにも相当の理由があると言うべきであり、原告による融資の事実を認識し得なかつたことをもつて、重過失による任務懈怠であると見ることは相当でない。
むしろ、被告西端、被告宮崎及び原告代表者の密接な人間関係を考えれば、条理上、原告代表者の方から被告宮崎に対し、融資の事実を告知するのが当然であるとも思われるが、前記認定のとおり、原告代表者が被告宮崎に対し明確な告知をしたのが平成三年一月ころになつてからであり、それ以前の段階においては、被告宮崎が原告による融資の事実は存在しないと信じていたとしても、何ら過失には該たらない。
4 よつて、原告の被告宮崎に対する金二億三五〇〇万円の損害賠償請求は理由がない。
七 結論
以上によれば、原告の被告会社に対する請求及び被告西端に対する請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、原告の被告村上に対する請求は、金一億四一〇〇万円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで月一・五パーセントの割合による金員の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余が理由がないから棄却し、原告の被告宮崎に対する請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 沢田三知夫 裁判官 村田鋭治 裁判官 早田尚貴)